-- 第18話
「サンタさんはどこにいる？」--

その１


Presented by 福 博士

＜これまでのあらすじ＞

未来……といっても、ほんの少し未来、そう、輝かしい21世紀の、まだ始まったばかりのころ。
この地球のとある町に、ユミという12才の女の子が住んでいた。

彼女は、ごく当り前の夢見る12才の少女のようだったが、彼女は他人よりもちょっとよいハードウェアを持っており、ちょっとだけ他人を想う思いやりが強く、そして何より可能性を信じる娘であった。


Xmas sale 「あ、サンタさん！」
年末……街はどこも歳末商戦の真最中である。
この賑やかな街、大阪梅田も浮かれたような人々でごった返している。

ユミの指差す方には、多分アルバイトであろう若い青年が髭をつけ、赤と白のお馴染みの衣装を着てチラシをまいていた。

「あ、あっちにもいるよ！」
モンの指差した方にも、同じようなサンタがプラカードを持って立っている。
「ウフ、街にはサンタさんが一杯ね★」
華やかなショウウィンドウ、賑やかな人々の群れ。
クリスマスソングが街じゅうに溢れている。

「クリスマスプレゼントか……」
ユミはきらびやかなショウウィンドウをのぞき込んだ。

……今年こそは、博士にも何かプレゼントをしたいわ……。

クリスマスイブの夜、毎年サンタさんは、いつの間にか彼女の欲しいものをまるで魔法のように枕元の靴下の中に入れておいてくれるのだった……。
……ホントにサンタさんったら、ユミのこと、いつまでも子供扱いなんだからぁ〜……

サンタさん?? 「何をプレゼントしようかな〜」
「ねえユミ、でもおこずかい足りるの〜？」
横からピグがつっ突いた。

ユミはポケットから、ちっちゃなピンク色のガマグチを出してきた。
中には、チャリン！ と、コインが数枚。
「あ〜ん、これじゃあ何も買えないわ……」
「先立つものがなけりゃあ、何もできんわい」
「全く世の中、お金がなけりゃあどうにもなんないよ」
シンクリードとモンはがっくりしてつぶやいた。


ユミと3匹のメカペット達が、とぼとぼと歩道を歩いていくと、いきなりそばの電話ボックスから死にそうな顔した若い男が飛び出してきて、勢いよく彼女にぶつかった……ユミはこのパターンが多いらしい。

「きゃあ〜、どこ見て歩いてんのよ〜もう！」
その男はしかし、ユミに気づいたようでもなく深刻な顔をして叫んだ。
「あ〜困った！ 今日来る予定のアルバイトの女の子が風邪ひいて来れなくなっちゃった！」

ユミはこの男の言葉にピンと来た。
「えっ！ アルバイト！ ……そうだわ、アルバイトしてお金を貯めればいいんだわ！」

そして今ぶつかった男に、よく考えもせずに声をかけた。
「ねぇねぇ、私アルバイトしたいんだけど」
「えっ！」
男はしげしげとユミを見た。

「う〜ん、お嬢ちゃんじゃあねえ……20前後位のもっと可愛い子じゃないと……」
「もう〜失礼しちゃうわね！ そうだ！ じゃあ、私のお姉さん呼んでくるわ、18才よ！」
「18才！」
男の目がうるうると輝いた。

「美人なんだから〜、保証するわよ、うん」
「ホント！ひゃあ〜助かる！」
「ちょっと待っててね★」
ユミはぱっと駆けだした。


人気のない地下街の一角まで来ると、ユミはシンクリードに尋ねた。

「ねえシンクリード、アルバイトできるようなキャリアスーツってあるの？」
「う〜ん」
「きゃぴきゃぴ女子大生とか……」
「そんなのあったかのう〜……」
シンクリードはしばらく何かを思い出しているようだった。

「あったぞい、214番キャンペーンギャル……ドキュメントファイルによると、女子大生のアルバイトになってるわい」
「それそれ！ きゃっほー」

ユミは、メタリングをひねった。
「エクスパ！」

低い唸りが空気を震わせた。

「214番、キャンペーンギャルのキャリアスーツ！」
鋭い光が路地に溢れた。
そして、光の中から八頭身美人のキャンペーンギャルが現われた。

「はい！ どうお？」
「わお！ 素敵な女の子」
「いつもよりいっとう美人ね〜」

モンとピグは褒めたが、シンクリードは複雑な表情だった。
「しかし、キャリアスーツにもアルバイトなんてあったんじゃな〜。何が『キャリア』なんじゃろう……」

ユミは走って戻りながら3匹に叫んだ。
「先に帰っておいていいわよ！」


「は〜い、呼んだ？」
男は顔をあげた。

と、そこには彼の想像していたよりもずっと美人の若い娘が立っていた。
「あなたが、今の女の子のお姉さん……ですか？」
「ピンポ〜ン、その通り」

ユミはちょっとポーズをとった。
「似てるでしょ？」「いいえ、全然！」……ガクッ！

「もう〜……あの子だって今にこんなに美人になるんだから……そりゃそうと、ところでどんなお仕事なの？」
「ほら、これだよ」
その男が指差したところには、近くにあるショッピングセンターのＢ全大の立体ポスターが、壁一面にずらっと並べて貼ってあった。

「フローラ東梅田、ハッピネスクリスマスセール……グランドプライズ世界一周旅行、あなたに贈ります……？」
カーリーヘアの若い黒人の男性モデルが、タキシードを着て花束を持っているポスターだった。
見る角度によって、その男性モデルが「にっ」と笑うのだ。

ユミは想わず吹いてしまった。
「プハ」
「笑わないでよ、このアイデアも僕が考えたんだから……」
その男がちょっとむくれた。

「あ、ごめんごめん。要は福引きなんだ……」
「うん、まあそういうことだね」
「じゃああなたは、その『フローラ東梅田』の人？」
「いや。僕はＳＰ（販売促進）制作会社ＧＥＲＯ（ジェロ）の人間さ……ここの広告はみんな大阪電広社に発注されていて……え〜と、そんなことは後だ」

ユミは目が点になった。
「ややこしいのね」

「世の中そんなもんさ。要は、君にやって欲しいのはキャンペーンギャルってわけさ」
「バッチリお任せ！ 得意中の得意よ」
「そりゃあいい。じゃあこっちだよ、来て！」


福引き会場は、景品の準備作業やディスプレイの用意で既に戦場と化していた。

「言い忘れていたけど、僕はここの現場管理ディレクターの西川です。君の名前は？」
「えっと、星野です。星野ユミ」
「ユミちゃんだね、よろしく。じゃあ、このトレーナーに着替えて来てくれるかい」
西川は手早くユミに指示した。

「ハイッ」
ユミは初めてのアルバイトに胸を高鳴らせながら、更衣室へと向かった。


「じゃあみんな集まって！」
西川が声を張り上げ、何人もいる若いキャンペーンギャル達は集合してきた。
全員揃いの、明るい原色のトレーナーを着て、帽子だけサンタさんのようなフサフサの帽子をちょこっとかぶっている。

「今日はこの星野さんが初めてだから、よく仕事の内容を教えてあげるように」
「ハイッ！」
「じゃあ最後に一言だけ言っておきます。私たちは、人々に夢を与えるお仕事です。現実にモノをプレゼントするだけではありません。当たるかも知れないという夢を人々に一瞬でも見せてあげるのが私たちのお仕事です。そのことを絶対に忘れないように。いいね」
「ハイッ！」
「ようし！今日も一日元気良く頑張ろう！」

華やかなキャンペーンギャル達は一斉に控え室を飛び出し、福引きカウンターについた。
西川は男性のスタッフに指示を出す。

「ディスプレイ電源ＯＮ！ 福引きコンピュータ作動開始！」
派手な『世界一周旅行』の立体ポスター。
きらきらと光を放つディスプレイに、豪華な上位景品がずらりと並んでいる。
それは冬の町中に、急に春が来たような光景だった。

ユミはベテランの女性の脇について仕事内容を教わった。
カウンターには、『ハッピネスカード』と書かれた小さな磁気カードを持つ客達が列を成している。

「いらっしゃいませ〜！」

買い物袋をたくさん持った、肥った中年女性が来た。
そのおばさんは、笑顔で応えるユミ達にニコリともせずにカードを出した。
ユミはカードを受け取ると、カードリーダーに差し込んだ。
「12回ですね★ どうぞ！」
「……こんなん当たる訳ないわ……当ったことないもん」
おばさんは口の中でそう言いながら、福引き器のハンドルを握った。

コンピュータのディスプレイには福引きの結果が次々と表われた。
「ほら、やっぱりハズレばっかりや！」
彼女はユミの方を見た。
「もう、やめよかな。ほんまに当たり入ってるんかいな……」
「入ってますよちゃんと！」
思わずユミはむきになってしまった。
その時、ようやく最低の賞が表示された。
「ほら、ネ★」

おばさんはまた最低賞のキャンディーを受け取りながら小声で言った。
「おや、当るもんなのねえー。やってみるもんねえ」
ユミは微笑んだ。
「でしょっ？」

「いるんだよのね〜ああゆうの」
隣の娘が小声でユミに囁いた。
「多いの？」
「うん。でもああゆう人って、本当はものすごく期待してドキドキしながら福引きに来るのよ。頭の中では『世界一周が当たったどうしよう』なんて考えながら並んでるの。だから余計にそんな考えを打ち消そうとしてあんなこと言うのよ」
「じゃあ、ほんとは『夢多き少女』なのね★」
「だって、はじめから当らないなんて思ってたら引きに来ないもんねえ〜」
「ウフ、そういうこと★」
二人は顔を見合わせて笑った。

「ははは……いろんなお客さんがいるからねえ。あとよろしくね……」
そばでやりとりを聞いていた西川は、控え室に戻って行った。


「大変ですよ！ 西川さん！」
スタッフの一人の男子バイトの子が、倉庫から西川に声をかけた。

「何だい？」
西川は、倉庫へ入っていった。

「どうした？」
「はい、それが……スミマセン！ 昨日の景品の在庫チェックをミスってました」
「え？」
「5等の景品が足りないんです！」

男子バイトは、ディスプレイに在庫チェック表を表示しながら、倉庫のダンボール箱を指で数えた。

「ほら。ケース数が足りないんです」
「確か、追加分は今日納品だったよな」
「はい。夕方には来る予定なんですが……」

西川は、『出玉表』を見て確認し、素早く電卓を叩いて計算した。
「うん……。今の在庫分だと昼過ぎまでしか持たないな……」

西川の顔が真剣になった。
彼はすぐに携帯電話で、納品業者と連絡を取ろうとしたが……あいにく、休日なので仲介業者とは連絡が取れなかった。

「困ったな。景品を切らせるワケにはいかない……せっかく福引を楽しみにやってくる人たちに、品切れなんて通用しない」
「どうするんですか？」
男子バイトは心配そうに言った。

「うん。5等の景品……」
西川は、机の上にあった景品をつまんだ。小さなキャンディだった。
最近流行のキャラクター『みっくドン』が描いてあった。
「これか……。よし……今なら、まだお客さんも少ないから、何台かの抽選機を停止させよう」

西川は、直ちに動いた。
そして、ユミの着いている台に近寄った。
「ユミちゃん！」
「はい」
「この台は一旦休止させるよ。ちょっと片付けて。で、裏の控室に来て」
「あ、はい」

ユミは、訳も判らず、カウンターの上を整理した。


控室には、手の空いた数名のキャンペーンガールたちが待っていた。
西川は、全員揃ったのを見て、キャンディを手にして言った。

「これから、みんなで手分けして、これと同じモノを、出来るだけたくさんかき集めて来よう！」
「え？」
「これと同じモノだ。百貨店、スーパー、お菓子屋、コンビニ……思い付く所は、どこでも行って探してくれ。そして……予定では、お昼までにこのキャンディが2000個要ることになる」
「に、2000個！？」
「そう、だからそのお店にあるキャンディは全部買い占めて来てくれていい。箱があれば、何ケース買ってきてもいい」

西川は、ポケットから財布を取り出し、現金をスタッフ一人一人に渡した。
彼の財布には、なぜか現金がいっぱい入っていた。

そして西川は、全員の顔を見渡した。
「いいね。2000人のお客さんの夢を壊しちゃいけないんだ。よし、作戦開始！」

スタッフは全員、バラバラに駆け出した。


「よおし！梅田界隈は、みんなが行くから、ちょっと離れた店まで行ってみよーっと」
ユミは、梅田から一駅分ほど歩いたところでお菓子屋を見つけた。

「ごめんくださーい！」
「あ、はい」
店の奥から、店員のおばさんが出てきた。

「あのー、これと同じキャンディ欲しいんですけど」
ユミはキャンディを出して言った。

「ああ、『みっくドン』キャンディね。コレ、今大人気だからねー。ホラ、そこに……」
おばさんは、店先に積んであるキャンディを指した。

「あー、もっとたくさん欲しいんですけど」
「たくさんってどれくらい？」
「何ケースでも……あるだけ」
「え？ あるだけ？」


結局、おばさんは、店の奥から何ケースものキャンディを出してきてくれた。
ユミは領収書をもらって、お礼を言った。

「お、重っ!!」
さすがに、両手に下げてもズシッと来るほどの重量になった。
「大丈夫？ 持てる？」
店のおばさんは、心配そうにユミの顔を覗き込んだ。
「なんの、これしき！ ……ハァッ、夢って重いのね★」

ユミがお店から出ようとすると、入れ違いに小さな子供たちがドヤドヤっと店に駆け込んで来た。
「オバサン！『みっくドン』キャンディある？」
ユミはドキッとした。

子供たちは口々に言った。
「梅田のどこのお店行っても品切れなんだよー」
「すっごく欲しいんだー」
「ねえ、どこにあるの？」

ユミは、逃げるようにその場から去った。
……ごめんねえー、Boys&Girls諸君。


クリスマス装飾 ユミはクリスマスムード溢れる街を、両手に一杯のキャンディを抱えて走った。
昼間とは言え、冬の寒空の下、吐く息がハァハァと白く見えた。

街には、お互いに肩を寄せ合うカップルも大勢見うけられた。

「いいなあー。でも、私の今のお仕事は、お客さんのために夢を運ぶことなのよねー」

ユミが現場に戻って来ると、すでにカウンター上のキャンディは品切れ寸前だった。

すでにお客さんが長い列を作りつつあり、カウンターに着いた女の子の笑顔が引きつっていた。
「はー。お待たせ〜。ギリギリセーフね」

倉庫へ行くと、他のスタッフたちもすでに戻って来ており、倉庫は様々なショッピングバッグに入った『みっくドン』キャンディが山積みになっていた。
百貨店で見つけた者、コンビニの店員に頼み込んで、裏からケースごと出してきてもらった者。

西川は、男子スタッフと電卓を弾きながら、計算していた。
「うん、これでなんとか間に合う。よし、みんな、ご苦労さん。じゃあ、早速、休止していた台を作動させるよ！」

再びカウンターに着いたユミは、追加されたキャンディの山を見て、安心感が広がった。

自然に、お客さんに笑顔を向けられた。
「いらっしゃいませ★ あ！」

そこには、さっきお菓子屋で見かけた子供たちが並んでいた。
「よおーし、世界一周なんていらないから、5等の『みっくドン』キャンディ狙うぞー！」
「もう、梅田には、ここしか『みっくドン』キャンディ無かったもんな」
「がんばれー」
先頭の男の子は、腕をまくって福引き器のハンドルに手をかけた。
「行くぞー」

ユミは、微笑んだ。
「はーーい、がんばって当てて下さいね★」

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